ラーメン店のメニューを見ると、「極細麺」「中太縮れ麺」「多加水ストレート麺」など、麺の説明が細かく書かれている。しかし、その違いが具体的に何を意味するのか、自信を持って説明できる人は意外と少ないだろう。
ラーメンの麺は「太さ」「加水率」「形状」という3つの要素の組み合わせで種類が決まる。この3要素を理解すると、メニューの説明文から味や食感を予測できるようになるだけでなく、「なぜこのスープにこの麺が合うのか」という必然性が見えてくる。ラーメンは麺とスープのペアリングの料理であり、麺の知識はラーメンをもう一段深く楽しむための武器になる。
・ラーメンの麺の太さを決める「切刃番手」の仕組み
・加水率の高低が食感にどう影響するか
・ストレート麺と縮れ麺のスープとの絡み方の違い
・ご当地ラーメンの麺が「その形状でなければならない」理由
・自家製麺と仕入れ麺の違いとこだわりの意味
麺の太さは「切刃番手」で決まる──番号と太さの関係

切刃番手とは?──30mmから何本切り出すかの数字
切刃番手(きりはばんて)とは、製麺機の切り刃の規格を示すJIS(日本産業規格)の数値で、30mm幅の麺帯から何本の麺を切り出すかを表している。例えば22番なら30mmから22本、つまり1本あたり約1.36mm幅の麺になる。計算式は単純で、30÷番手=麺の幅(mm)だ。番手の数字が大きいほど1本あたりの幅が狭くなるため細麺になり、数字が小さいほど太麺になる。この「番手」はラーメン業界の共通言語であり、製麺所への発注でも「22番で」と番手で指定するのが一般的だ。ラーメン好きの間でも「あの店は26番のストレートを使っている」といった会話が交わされることがあり、番手を知っているだけでラーメン談義の解像度が一段上がる。
極細麺から極太麺まで──番手別の太さと代表的なラーメン
ラーメンの麺は太さによって大きく6段階に分けられる。極細麺(28〜30番、幅1.0〜1.1mm)は博多ラーメンの代名詞で、パスタでいうカッペリーニほどの繊細さだ。細麺(24〜26番、幅1.15〜1.25mm)はあっさり系の醤油ラーメンや塩ラーメンに多い。中細麺(20〜22番、幅1.36〜1.5mm)はもっとも汎用性が高く、多くのラーメン店のスタンダードだ。中太麺(16〜18番、幅1.67〜1.88mm)は家系ラーメンや味噌ラーメンの定番。太麺(12〜14番、幅2.14〜2.5mm)はつけ麺やまぜそばで活躍する。そして極太麺(8〜10番、幅3.0〜3.75mm)は二郎系や武蔵野うどん風の一部のラーメンで使われる圧倒的な存在感の麺だ。うどんが3〜4mm幅であることを考えると、極太麺はほぼうどんに近い太さということになる。
太さがスープとの相性を決める理由──表面積と吸収量の物理学
麺の太さはただの見た目の違いではなく、スープとの絡み方と味の感じ方を物理的に決定する。細い麺は表面積の割合が大きいため、口に入れたときにスープの味を強く感じる。博多ラーメンの極細麺が濃厚な豚骨スープに合うのは、細い麺がスープを大量に口に運ぶからだ。逆に太い麺は表面積の割合が小さく、麺自体の小麦の味をしっかり感じられる。つけ麺の太麺が濃厚なつけダレに負けないのは、太い麺の小麦感がタレの強い味に拮抗するからだ。あっさりスープに太麺を合わせると麺の味がスープに勝ってしまい、濃厚スープに極細麺を合わせるとスープの味が圧倒してしまう。太さの選択は味のバランスの設計そのものであり、ラーメン店主のセンスが最も端的に表れるポイントだ。
| 番手 | 太さ(mm) | 分類 | 代表的なラーメン |
|---|---|---|---|
| 28〜30番 | 1.0〜1.1 | 極細麺 | 博多ラーメン |
| 24〜26番 | 1.15〜1.25 | 細麺 | 醤油・塩ラーメン |
| 20〜22番 | 1.36〜1.5 | 中細〜中太麺 | 万能型・味噌ラーメン |
| 16〜18番 | 1.67〜1.88 | 中太麺 | 家系・つけ麺 |
| 12〜14番 | 2.14〜2.5 | 太麺 | つけ麺・まぜそば |
| 8〜10番 | 3.0〜3.75 | 極太麺 | 二郎系 |
加水率が麺の食感を決める──低加水と多加水の違い
加水率とは?──小麦粉に対する水分量の割合
加水率とは、麺を作る際に小麦粉に加える水分の割合のことだ。小麦粉1kgに対して300ml(300g)の水を加えれば加水率30%、400ml加えれば40%になる。一般的なラーメンの麺の加水率は28〜45%程度で、この数字が麺の食感、硬さ、のびやすさ、スープの吸い方をほぼ決定する。加水率は目に見えない数字だが、ラーメンの味わいに与える影響は太さや形状以上に大きい。同じ太さ・同じ形状の麺でも、加水率が違えばまったく別物の食感になるのだ。ラーメン店のメニューに「低加水麺使用」「多加水もちもち麺」などの記述があれば、食べる前から食感を予測できる。この知識があるだけで、注文前のワクワク感が一段と変わってくるだろう。
低加水麺(28〜33%)──パツパツの歯切れと小麦の香り
加水率が33%以下の麺を低加水麺と呼ぶ。水分が少ないため生地が硬く、パツパツ・プツプツとした歯切れの良い食感が特徴だ。噛んだ瞬間にスパッと切れる快感があり、小麦粉本来の香りをストレートに感じられる。スープを吸いやすい性質があるため、食べているうちに麺にスープの味が染み込んでいく。ただし裏を返せばのびやすいということでもあり、博多ラーメンの「替え玉」文化は低加水麺がのびる前に食べ切るために生まれたシステムだ。低加水麺の代表格は博多ラーメンの極細ストレート麺で、「バリカタ」「ハリガネ」など硬さの指定ができるのも低加水麺ならではの楽しみ方だ。茹で時間が短く、30秒〜1分程度で茹で上がるのも特徴で、回転率の高い博多の屋台文化と低加水極細麺は切り離せない関係にある。
多加水麺(36%以上)──もちもちの弾力とつるりとした喉越し
加水率が36%以上の麺を多加水麺と呼ぶ。水分が多いため生地が柔らかく、もちもちとした弾力とつるんとした滑らかな喉越しが特徴だ。噛むとモチッと跳ね返す食感があり、歯ごたえを長く楽しめる。水分が多い分スープを吸いにくく、のびにくいのが大きなメリットだ。喜多方ラーメンや佐野ラーメンに代表される多加水の手打ち麺は、ゆっくり食べてもコシが長持ちする。ただしスープの味が麺に染み込みにくいため、多加水麺を使う場合はスープ自体の味を濃いめに設計するか、縮れをつけてスープの持ち上げ量を増やす工夫が必要になる。加水率45%を超えると「超多加水麺」と呼ばれ、ほぼうどんに近い食感になるが、これを個性として打ち出す店も近年増えている。
中加水麺(33〜36%)──万能型のバランスポジション
加水率33〜36%の中加水麺は、低加水の歯切れと多加水の弾力の両方のいいとこ取りをしたバランス型だ。ほどよい硬さとほどよいもちもち感を兼ね備え、醤油・塩・味噌・豚骨とどんなスープにもそれなりに合う汎用性の高さが強み。多くのラーメンチェーン店や中堅ラーメン店がこの中加水帯の麺を採用しているのは、万人受けする食感であるためだ。しかし裏を返せば「突出した個性がない」とも言えるため、麺にこだわりを持つ専門店は中加水帯を避けて、低加水か多加水のどちらかに振り切る傾向がある。「この麺でなければ出せない味」という一点突破型の麺を選ぶのが、ラーメン専門店の矜持なのだ。
「低加水麺はまずい、多加水麺が上質」──これは完全な誤解だ。加水率に優劣はなく、スープとの相性で決まる。博多の極細低加水麺を「安っぽい」と思う人がいるが、あの麺は濃厚豚骨スープと合わせることで完成する精密設計であり、多加水麺では絶対に再現できない。逆に多加水の喜多方麺であっさり醤油と合わせるのは絶妙だが、博多の豚骨に入れたらバランスが崩壊する。
ストレート麺と縮れ麺──形状が変えるスープとの関係

ストレート麺──麺間の密着がスープを吸い上げる
ストレート麺は文字通り真っ直ぐな形状の麺で、麺と麺の間に隙間が少ないのが特徴だ。箸で持ち上げたとき、麺同士が束になって密着するため、毛細管現象のように麺間のスープを吸い上げて口に運ぶ。結果としてスープの味をダイレクトに感じやすい。博多ラーメンのストレート極細麺は、この原理で濃厚な豚骨スープを効率的に口に運んでいる。家系ラーメンの中太ストレート麺も、ライスと一緒に食べるときに麺に絡んだ濃いスープがご飯を引き立てる設計だ。見た目もスッキリとしており、丼の中で麺が整然と並ぶ美しさがある。
縮れ麺──波打つ形状がスープを「運ぶ」
縮れ麺は波打った形状の麺で、麺と麺の間に隙間が多いのが特徴だ。この隙間にスープが溜まり、箸で持ち上げたときにスープを「ポケット」のように抱え込んで口に運ぶ。ストレート麺が「吸い上げる」のに対し、縮れ麺は「運ぶ」──スープの持ち上げ方がまったく異なるのだ。あっさりしたスープの場合、ストレート麺だと味が口に届きにくいが、縮れ麺なら波の谷間にスープが溜まるため、十分な味の濃度を感じられる。札幌味噌ラーメンの太縮れ麺は、味噌スープの旨味を波間に閉じ込めて口に届ける。喜多方ラーメンの多加水縮れ麺は、あっさり醤油スープを麺のウェーブで効率的に持ち上げている。
縮れの作り方──手もみと機械の2つの方法
縮れ麺の作り方には大きく2つの方法がある。一つは手もみで、切り出した麺を手で揉んで不規則なウェーブをつける方法だ。手もみの縮れは波の大きさや間隔がランダムになるため、口の中での食感に変化が生まれる。喜多方ラーメンや佐野ラーメンの手打ち麺は、この手もみによる不規則な縮れが特徴だ。もう一つは製麺機のゴム板を使う方法で、切り刃の裏側にゴム板を貼ることで、切り出された麺が均等に波打つようになる。こちらは均一な縮れが得られるため、品質の安定した大量生産に向いている。札幌ラーメンの黄色い縮れ麺の多くはこの機械式で作られている。ちなみに「かんすいを入れると麺が縮れる」という説が広まっているが、Wikipediaの中華麺の項目でも否定されている俗説であり、縮れは物理的な加工(手もみまたは製麺機の工夫)によって生み出される。
ストレート麺と縮れ麺、どちらがスープに「よく絡む」かは実は議論がある。一般的には「縮れ麺の方がスープが絡む」と言われるが、製麺所の見解では「ストレート麺の方がスープを吸い上げやすい」とする意見もある。結局のところ「絡む」の定義が「麺の表面にスープが付着する」なのか「麺の間にスープが溜まる」なのかで結論が変わる、奥深い問題なのだ。
かんすいが中華麺を「中華麺」にする──そばでもうどんでもない理由
かんすいとは何か?──アルカリ塩水溶液の正体
かんすい(梘水・鹹水)は、中華麺の製造に使われるアルカリ性の塩水溶液だ。主成分は炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ塩で、これを小麦粉の生地に加えることで、そばでもうどんでもない中華麺特有の性質が生まれる。まず、かんすいのアルカリ性が小麦粉のグルテンを引き締め、独特のコシ(弾力)を与える。うどんのコシが塩と水によるグルテン形成なのに対し、中華麺のコシはかんすいのアルカリ反応によるもので、質的にまったく異なる。次に、小麦粉に含まれるフラボノイド色素がアルカリ条件下で黄色く発色し、中華麺特有の黄色い色になる。そして、かんすいが生地と反応することで生まれる独特の風味(いわゆる「かんすい臭」)が、中華麺らしさを決定づける。
かんすいの量で麺の個性が変わる
かんすいの配合量は麺の個性を大きく左右する。かんすいが多い麺はコシが強く、色も濃い黄色になり、中華麺特有の風味(やや独特の香り)が際立つ。札幌ラーメンの黄色い縮れ麺はかんすいが比較的多めで、あの鮮やかな黄色とモチッとした食感はかんすいの効果によるものだ。一方、かんすいが少ない麺はコシが穏やかで色も薄い淡黄色になり、小麦本来の風味が前面に出る。最近のトレンドである「小麦の香りを楽しむ」系のラーメン店では、かんすいを最小限に抑えた麺を使う傾向がある。かんすいをまったく使わない場合は「無かんすい麺」と呼ばれ、もはや定義上は中華麺ではなくなるが、グルテンフリー対応やアレルギー対応を目的とした無かんすい麺を提供するラーメン店も登場している。
かんすいが「のびにくさ」にも影響する
かんすいのアルカリ性はグルテンのネットワークを強化するため、麺ののびにくさにも関わっている。かんすいが多い麺はグルテンが強く引き締められているため、スープに長時間浸かっていても食感が崩れにくい。つけ麺の太麺にかんすいが多めに使われることがあるのは、冷水で締めた後もコシを長時間維持するためだ。逆にかんすいが少ない麺はグルテンが柔らかいため、のびやすい傾向がある。ラーメン店が「スープがぬるくなる前にお早めにお召し上がりください」と注意書きを出している場合、その麺は低加水かつ低かんすいで、のびやすい繊細な麺である可能性が高い。「提供後5分以内に食べ始めてほしい」──それは店主から客への、麺へのリスペクトを込めたメッセージなのだ。
ご当地ラーメンの麺はなぜ「その形」なのか
博多ラーメン──極細低加水ストレートが生まれた必然
博多ラーメンの麺は26〜28番の極細ストレート・低加水(28〜30%)が標準だ。この組み合わせには合理的な理由がある。博多ラーメンのスープは豚骨を長時間炊いた濃厚白湯であり、麺は細ければ細いほどスープの味を効率的に口に運べる。そして低加水であることで麺がスープを吸い、スープと麺が一体化した味わいが生まれる。さらに極細低加水麺は茹で時間が30秒〜1分と極めて短いため、屋台や行列店での提供スピードが圧倒的に速い。博多の屋台文化における「回転率」への要請と、濃厚豚骨スープとの味のマッチングが、極細低加水ストレートという形に結実したのだ。替え玉文化も、のびやすい低加水麺を少量ずつ追加してベストな食感で食べるための知恵である。
喜多方ラーメン──多加水太縮れ手もみ麺の贅沢
福島県喜多方市のラーメンは16〜18番の中太〜太麺・多加水(38〜42%)・手もみ縮れが特徴だ。蔵の街・喜多方では昭和初期から「朝ラー(朝からラーメンを食べる文化)」が根付いており、朝食として食べるラーメンには「胃に優しいあっさりスープ」と「ゆっくり食べてものびない麺」が求められた。多加水麺はスープを吸いにくいため食べている間の食感変化が少なく、朝の穏やかな食事のペースに合っている。手もみによる不規則な縮れは、あっさりした醤油スープを麺のランダムな波間に溜めて口に運ぶ役割を果たしている。喜多方の水は軟水で、製麺に適しているとも言われる。麺の形は、その土地の食文化と自然環境が長い時間をかけて作り上げた結果なのだ。
札幌ラーメン──中太多加水縮れ麺と味噌の必然的ペアリング
札幌ラーメンの麺は20〜22番の中太・多加水(35〜38%)・機械縮れが主流だ。かんすいが比較的多めに使われるため、鮮やかな黄色とモチッとした弾力が際立つ。札幌ラーメンが味噌味を看板にするようになったのは1960年代以降だが、味噌ラーメンの濃厚なスープには中太の麺でなければ味のバランスが取れない。細麺では味噌の力強い味に負けてしまうからだ。縮れによって味噌スープを効率的に持ち上げ、多加水のもちもち食感が味噌の旨味と調和する。北海道の寒冷な気候では、熱いスープが冷めにくい太めの麺が好まれたという環境要因もある。細麺は表面積が大きいためスープの温度を奪いやすいが、太麺はスープの保温性に貢献するのだ。
- 博多:極細(26-28番)/低加水(28-30%)/ストレート → 濃厚豚骨白湯
- 喜多方:太(16-18番)/多加水(38-42%)/手もみ縮れ → あっさり醤油
- 札幌:中太(20-22番)/多加水(35-38%)/機械縮れ → 味噌
- 家系:中太(18番前後)/中〜多加水(33-36%)/ストレート → 豚骨醤油
- 佐野:太(14-16番)/多加水(40%+)/手打ち縮れ → あっさり醤油
- 尾道:中細(22-24番)/中加水/平打ち → 背脂醤油
自家製麺と仕入れ麺の違い──「自家製麺」は本当に偉いのか?
自家製麺のメリット──スープに完全最適化できる
「自家製麺」を看板に掲げるラーメン店は多い。自家製麺の最大のメリットは、自分のスープに100%最適化した麺を作れることだ。太さ、加水率、かんすいの量、小麦粉の種類、熟成時間──すべてのパラメータを自由に調整できる。市販の製麺機を使えば、日々の試行錯誤でベストな麺を追求できる。また、毎日の仕込みで麺を打つことで鮮度が高く、打ちたての麺は小麦の香りが格段に豊かだ。さらに「うちの麺は他では食べられない」というオリジナリティは、リピーターを生む大きな武器になる。自家製麺はラーメン店主の「味へのこだわり」を最もわかりやすく伝えるシグナルであり、ラーメンファンにとっても特別感を感じるポイントだ。
仕入れ麺のメリット──プロの製麺技術と安定した品質
一方、優れた製麺所から麺を仕入れる店にもれっきとしたメリットがある。製麺のプロが作った麺は品質が安定しているのだ。温度、湿度、季節によって小麦粉の状態は日々変化するが、経験豊富な製麺所はこの変化を織り込んで均一な麺を作り続ける技術を持っている。自家製麺の場合、店主の体調や忙しさによって麺の出来にバラつきが出るリスクがあるが、製麺所からの仕入れであればそのリスクはない。また、大手製麺所は高品質な小麦粉を大量に仕入れることでコストメリットを出せるため、個人店が同じ品質の小麦粉を少量で買うよりも原価を抑えられることもある。名店と呼ばれる店の中にも、信頼する製麺所から仕入れた麺を使い続けている店は数多く存在する。
麺のこだわりは「自家製かどうか」ではなく「スープとの相性」で判断すべき
「自家製麺=良い店」「仕入れ麺=手抜き」という図式は完全な偏見だ。重要なのは麺がスープに合っているかどうかであり、その麺を誰が作ったかは本質的には関係ない。自家製麺でも、スープとの相性が悪ければ意味がない。逆に、製麺所の高品質な麺をスープに最適な仕様でオーダーメイドしている店は、実質的に「プロに自家製を委託している」のと同じだ。多くの製麺所は取引先のラーメン店ごとに麺の仕様(番手・加水率・かんすい量・小麦の種類)を変えてオーダーメイド対応しており、「仕入れ麺=画一的」というイメージは実態と異なる。ラーメンを評価するなら、「自家製かどうか」ではなく「一杯としての完成度」で判断するのがラーメン通の流儀だ。
麺の「熟成」をご存知だろうか。打ちたての麺をすぐに茹でるのではなく、1〜3日間冷蔵庫で寝かせることで、グルテンが落ち着いて食感がしなやかになる。熟成させすぎると麺が酸化して風味が落ちるため、ベストな熟成日数を見極めるのも職人の技だ。自家製麺の店が「本日の麺は2日熟成」と書いている場合、それは丁寧な仕事の証拠である。
麺の断面形状──丸麺・角麺・平打ち麺の違い
丸麺──喉越し重視のスムーズな形
製麺機の切り刃で丸い断面に切り出された丸麺は、口の中での転がりが滑らかで喉越しが良いのが特徴だ。すすったときにツルッと口に入る感覚は丸麺ならではの快感で、細麺の丸形はスープとの一体感が高い。博多ラーメンの極細ストレート麺は丸断面であることが多く、ズズッとすすり上げる博多流の食べ方に最適化されている。丸麺はスープの持ち上げ量は角麺に比べてやや少ないが、その分麺自体の食感が軽やかで、何杯でも食べたくなる「軽快さ」がある。つるりとした喉越しを重視する塩ラーメンや鶏白湯ラーメンとの相性が良い。
角麺──もっちり食感とスープの持ち上げ力
角麺(四角断面)は、断面が四角形に近い形状の麺だ。丸麺に比べて表面積が大きく、麺の角がスープを引っ掛けるためスープの持ち上げ量が多い。食感はもっちりとしており、噛みごたえがしっかりある。家系ラーメンや味噌ラーメンなど、濃いめのスープに合わせる場合は角麺の方がスープとの一体感が出やすい。角断面の角がスープを「引っ掛ける」ことで、一口ごとに適量のスープが口に入る設計になっている。見た目にも「しっかりした麺」という印象を与えるため、ボリューム感のあるラーメンとの相性が良い。
平打ち麺──幅広で食べ応え抜群の存在感
平打ち麺は、厚みよりも幅が広い断面を持つ麺だ。きしめんやパスタのフェットチーネに似た形状で、口の中での存在感が圧倒的に大きい。表面積が広いためスープを大量に持ち上げ、一口で感じるスープの量はすべての麺形状の中で最多だ。尾道ラーメンの平打ち麺は、背脂が浮かんだ醤油スープを幅広の麺面で効率的に運ぶ。二郎系の極太平打ち麺は、ワシワシとした噛み応えが野菜マシのボリュームに負けない存在感を発揮する。平打ち麺は「噛んで味わう」麺であり、すすり上げる麺とは食べ方のアプローチ自体が異なる。
ラーメン店での麺の楽しみ方──硬さの指定と替え玉のタイミング
麺の硬さ指定の意味──バリカタからやわまで
博多ラーメン系の店では麺の硬さを指定できることが多い。やわ→普通→カタ→バリカタ→ハリガネ→粉落としの順に硬くなるのが一般的だ。硬さの指定は「茹で時間の長さ」をコントロールしているだけだが、食感への影響は劇的だ。「カタ」にすると小麦の香りが強く残り、パツッとした歯切れが楽しめる。「やわ」にするとスープが麺にしっかり染み込み、麺とスープの一体感が増す。初めての店では「普通」で注文して店の基準を知り、2回目以降に好みの硬さを探るのがセオリーだ。ちなみに「ハリガネ」以上の硬さは生煮えに近く、小麦の消化に胃腸が弱い人は注意が必要だ。
替え玉のベストタイミング──スープが半分残っている段階で注文
替え玉は低加水麺がのびる前に食べ切るために生まれたシステムだが、注文のタイミングにもコツがある。理想はスープが丼の半分程度残っている段階で替え玉を注文することだ。スープが少なすぎると替え玉がスープに浸からず「麺を食べているだけ」の状態になるし、スープがたっぷり残った状態で注文すると1杯目の麺を残すことになってもったいない。替え玉を入れたら卓上のタレやにんにくで味を調整するのも博多流の楽しみ方だ。スープの濃度が薄まるため、タレを少量足して味のバランスを取る。この「味の再構築」ができるのが替え玉の醍醐味であり、1杯目と2杯目で異なる味わいを楽しめるのだ。
太さの好みが分かれば「おすすめ」を聞かなくなる
ラーメン店で「おすすめは何ですか?」と聞くのは悪いことではないが、自分の麺の好みが分かっていればメニューから自力で最適な一杯を選べるようになる。「今日はパツパツの歯切れが欲しい」と思えば低加水の細麺を選び、「もちもちの弾力を楽しみたい」と思えば多加水の太麺を選ぶ。スープの種類で迷ったときも、「このスープにはどの太さの麺が合うか」を逆算すれば選択肢が絞られる。麺の知識はラーメンの注文力を高める実践的なスキルであり、知れば知るほどラーメン店に行くのが楽しくなるはずだ。「どの麺が好きか」は「どんなラーメンが好きか」と同義であり、自分の麺の好みを自覚することは、ラーメン人生を豊かにする第一歩である。
まとめ|麺を知ればラーメンはもっと深く楽しめる
ラーメンの麺は「太さ(切刃番手)」「加水率」「形状(ストレート/縮れ)」の3要素で決まる。そしてこの3要素は、スープの種類・濃さ・温度との相性によって「正解の組み合わせ」が存在する。麺の知識は、ラーメンを「なんとなく美味い」から「なぜ美味いかわかる」に引き上げてくれるものだ。
この記事の要点:
- 切刃番手は「30mm÷番手=麺の幅(mm)」で計算できるJIS規格の数値
- 番手の数字が大きいほど細麺、小さいほど太麺になる
- 低加水麺(33%以下)はパツパツの歯切れ、多加水麺(36%以上)はもちもちの弾力
- ストレート麺は麺間の密着でスープを「吸い上げ」、縮れ麺は波間にスープを「溜めて運ぶ」
- かんすいが中華麺のコシ・黄色い色・独特の風味を作る
- ご当地ラーメンの麺の形状は、スープ・食文化・気候が決めた必然
- 自家製麺vs仕入れ麺は優劣ではなく「スープとの相性」で判断すべき
次にラーメン店でメニューを見たとき、「中太多加水縮れ麺」という文字から食感と味わいが脳内に浮かぶようになっていれば、この記事の目的は達成だ。

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