スーパーの精肉コーナーの端で、白く太い骨がパックに収まっているのを見かけたことはないでしょうか。「これでラーメンのスープが取れるらしい」と気になりつつも、豚骨や鶏ガラと違って情報が少なく、何から手をつければいいのか分からない。牛骨スープは、そんな「気になるけれど踏み出せない」スープの代表格です。
先に結論をお伝えすると、牛骨スープの作り方は「血抜き→霜降り→本煮込み」の3段階で、味の良し悪しを決めるのは火加減よりも最初の下処理です。冷水に3時間以上(理想は8~12時間)浸して血を抜き、沸騰湯で表面の汚れを固めて洗い流す。ここを丁寧にやれば、材料は牛骨とお湯だけでも、ほんのり甘く澄んだスープに仕上がります。
この記事では、骨の選び方から、澄んだ清湯系と白濁した白湯系の炊き分け、韓国家庭に伝わる「3番だし」の考え方、冷まし方と脂の取り方、そして鳥取の牛骨ラーメンに学ぶ使い道までを、ラーメン好きが語りたくなる雑学とあわせて解説します。
・牛骨スープの臭みを消す「血抜き」と「霜降り」の正しいやり方
・澄んだスープと白濁スープで火加減が真逆になる理由
・3番だしまで取る韓国式の煮出し方と、冷まして脂を除く仕上げ
・鳥取牛骨ラーメンに学ぶ、牛骨スープのラーメンへの活かし方
牛骨スープとは何か?鶏ガラや豚骨にない「甘いコク」の正体

牛の骨から取るだしは「甘み」がいちばんの個性
牛骨スープの持ち味をひと言で表すなら、濃厚でコク深く、ほんのり甘さが感じられる独特の味わいです。鶏ガラスープのすっきりした香り、豚骨スープの獣っぽい力強さとも違い、口に含んだ瞬間に丸い甘みがふわりと広がり、後味に牛脂の香ばしさが残ります。日本のラーメン史で見ると、牛骨は長く脇役でした。明治・大正の東京で広まった中華そばは鶏ガラと豚ガラが主流で、牛骨を主役に据えた一杯は地方の限られた地域に残るにとどまります。一方、世界に目を向けると、韓国のソルロンタン、フランスのフォン・ド・ヴォーなど、牛の骨からだしを引く料理は各国の食卓の土台を支えてきました。よくある誤解が「牛骨スープ=ビーフコンソメの親戚」というもの。コンソメは肉や野菜を加えて澄ませる料理ですが、牛骨スープの基本材料は牛骨とお湯のみ。骨そのものの味を引き出す、きわめて素朴な料理です。
コクの源は骨髄とコラーゲン、そして牛脂
では、あの甘いコクはどこから来るのでしょうか。牛骨の断面をのぞくと、中心に黄色みを帯びた骨髄が詰まっています。加熱で骨髄がスープに溶け出すことで、味わいはさらに濃くなります。加えて、関節まわりに多いコラーゲンが長時間の加熱でゼラチンに変わり、スープにとろみと厚みを与えます。この「骨髄+ゼラチン+牛脂」の三重奏が、牛骨スープならではのまろやかさの正体です。具体的には、ゲンコツと呼ばれる大腿骨は関節部分にコラーゲンが豊富で、長く煮込むほど濃厚なコクととろみが出る部位として重宝されます。冷蔵庫で冷やしたスープがぷるんと固まれば、ゼラチンがしっかり溶け出した証拠です。マニアックな補足をすると、牛脂は豚脂より融点が高く、冷めると白く固まりやすい性質があります。これが後で紹介する「冷まして脂を取る」工程を可能にしているのです。
ボーンブロスとしての注目と、知っておきたい線引き
ここ数年、牛骨スープはボーンブロスという名前でも注目を集めています。骨を長時間じっくり煮込んだスープのことで、欧米の健康志向の流行から日本にも広まりました。骨を長く煮ると、アミノ酸やコラーゲン、ビタミンに加え、カルシウム・マグネシウム・リンといったミネラルがスープに溶け出すとされます。アミノ酸ではグリシン、プロリン、グルタミンなどが含まれ、コラーゲンは長時間の加熱でゼラチン化します。ただし、ここは冷静に線を引いておきたいところ。ボーンブロス専門店自身も「あくまでも健康食品であり、医薬品とは異なるため、実感できる効果には個人差がある」と明言しています。ラーメン好きとしては、効能を期待して飲むよりも「骨の滋味をまるごと味わう料理」として楽しむのが健全な付き合い方でしょう。栄養面の話題は、晩酌の席で語る蘊蓄程度にとどめておくのが粋というものです。
ラーメンのスープは大きく、澄んだ清湯(チンタン)と白く濁った白湯(パイタン)に分かれます。牛骨も同じで、弱火で静かに炊けば黄金色の清湯、強火で骨を踊らせれば乳白色の白湯になります。同じ骨から正反対の2つのスープが生まれるのが、骨だしの面白さです。

ラーメン屋のメニューで「白湯」という二文字を見たとき、思わず「さゆ」と読みかけた経験はないでしょうか。あの、風邪をひいたときに飲むお湯です。ところがラーメンの世…
どの骨を買えばいい?ゲンコツを選ぶ理由と入手のコツ
主役は拳の形をした大腿骨「ゲンコツ」
牛骨スープで最も一般的に使われるのが、ゲンコツと呼ばれる大腿骨です。名前の由来は、骨の頭が握りこぶし(拳)のような形をしていること。豚骨スープでも同じ呼び名が使われるので、ラーメン好きならピンとくる言葉でしょう。ゲンコツが選ばれる理由ははっきりしていて、関節部分にコラーゲンが豊富なうえ、太い骨の内側に骨髄がたっぷり詰まっているからです。長時間煮込むと、関節からはとろみ、骨髄からはコクが溶け出し、スープの骨格ができあがります。精肉店では「スープ用」として、大腿骨だけでなく上腕骨やすねの骨などがバランスよく混ざったものが売られていることもあります。よくある誤解は「背骨やあばら骨でも同じ味になる」というもの。骨によって骨髄や軟骨の量が違うため、濃厚さを求めるならゲンコツを軸にするのが近道です。
「お肉屋さんで割ってもらう」が最大の時短術
牛骨を手にして最初に驚くのは、その硬さと重さです。業務用の手順では、骨を流水で洗ったあとハンマーで割る工程が入ります。骨を割ると断面から骨髄が露出し、だしの出方がまるで変わるからです。ところが家庭でこれを真似しようとすると、牛骨は硬く、ハンマーで割るのは困難です。まな板が割れたり、骨片が飛び散ったりと、台所が一気に工事現場になります。そこでおすすめなのが、購入時にお肉屋さんに割っておいてもらう方法。専用の電動ノコギリで切り分けてもらえば、断面がきれいで鍋にも収まりやすくなります。ラーメン自作の世界では、豚骨でも牛骨でも「割るのは肉屋に任せる」が定石として語られてきました。道具をそろえる前に、まずは近所の精肉店に「スープ用の牛骨を割ってほしい」と相談するところから始めてみてください。
鍋の大きさと水の量を先に決めておく
骨を買う前に確認しておきたいのが、手持ちの鍋のサイズです。水の量は骨の1.5~2倍程度が目安。つまり、骨が多いほど鍋も大きくなります。家庭の両手鍋では、ゲンコツを割ってもらっても数本入れればいっぱいになることが多く、欲張って骨を詰め込むと水が足りずに焦げつきの原因になります。圧力鍋で時短したい場合も注意が必要で、牛骨を入れるなら6リットル以上の容量が必須とされます。小さな圧力鍋では骨と水が規定量を超えてしまい、安全に加圧できないためです。業務用の配合例では水10L+牛骨4kgという比率が紹介されており、プロの寸胴がどれほど大きいかが分かります。家庭でこの比率を再現する必要はなく、鍋に入る骨の量を決めてから、骨の1.5~2倍の水を張る、という順番で考えると失敗しません。
状況:精肉店で丸ごとのゲンコツを買い、そのまま鍋に入れて長時間煮たのに、色も味も薄いままだった。
原因:太い骨の内側にある骨髄が外に出ず、だしの出口が骨の表面だけになっていた。
対策:購入時に「スープ用に割ってください」と頼む。自分でハンマーを振るうのは困難なので、最初から割った状態の骨を買うのが確実です。
牛骨スープの作り方の第一歩|血抜きと霜降りで臭みを断つ

なぜ血抜きが必要なのか:骨の中に残る血がアクになる
牛骨スープづくりで、いちばん大切なのがこの血抜きです。牛骨の中には、毛細血管や骨髄の中に多くの血が残っています。これが加熱されるとアクになり、スープを濁らせたり臭みの原因になったりします。血を十分に抜かないまま炊くと、えぐみや血生臭さが残り、どれだけ丁寧に煮込んでも挽回できません。韓国の家庭では、牛骨スープ(サゴルコムタン)を作るとき、まず骨を水に浸けて血を抜くのが当たり前の手順として受け継がれています。日本のラーメン店でも、牛骨を扱う店は仕込みの最初に水に漬ける工程を置くのが一般的です。よくある誤解が「どうせ沸騰させるのだから、血抜きは下茹でで代用できる」という考え。下茹では表面の汚れを取る工程で、骨の奥に残った血までは抜けません。血抜きと霜降りは役割が違う、別々の工程だと覚えておきましょう。
冷水に3時間以上、1時間ごとに水を替える
具体的な手順はシンプルです。大きなボウルや寸胴に牛骨を入れ、たっぷりの冷水に浸します。時間は最低3時間、理想は8~12時間。水は1時間ごとに入れ替え、濁ったらこまめに替えるのがコツです。最初の水はうっすら赤く染まり、替えるたびに色が薄くなっていきます。ここで守りたいのが「必ず冷水を使う」こと。温かい水を使うとタンパク質が変性してしまい、血が抜けにくくなるからです。夏場の台所で長時間放置すると水温が上がりやすいので、気温が高い時期は保冷剤を入れるなど水温を低く保つ工夫をしましょう。夜に骨を水に浸けて寝る前に1回、翌朝までに数回水を替える、という段取りにすると、8~12時間の理想的な血抜きも無理なくこなせます。
霜降りは「沸騰湯にくぐらせて洗う」ための工程
血抜きが終わったら、次は霜降りと呼ばれる作業です。これは一度沸騰したお湯に骨をくぐらせることで、表面に残ったタンパク質や余分な脂、汚れを固めて取り除きやすくする工程です。骨が浸かるほどの水を張って強火で沸騰させると、表面から黒っぽい血の塊や灰色の泡が一気に浮いてきます。業務用の手順では、沸騰後数分炊いたら湯をすべて捨てることで、血や臭みをしっかり抜くとされています。湯を捨てたら、骨を冷水で2~3回丁寧に洗います。骨の隙間や断面に固まった汚れを指でこすり落とすと、本煮込みのアクが目に見えて減ります。鍋の内側にも汚れがこびりつくので、骨を洗っている間に鍋も一度洗っておきましょう。この「捨てる・洗う」をケチらないことが、澄んだスープへの最短ルートです。
アク取りは本煮込みの最初が勝負
本煮込みに入っても、しばらくは表面にアクが浮いてきます。浮いてくるアクをすくい取ることで、食材に含まれるえぐ味やしぶ味、にが味などが取り除かれ、仕上がりの色もきれいになります。とくに沸騰直前から沸いてすぐの時間帯は、黒っぽいアクが集中して浮いてくるので、お玉とボウルに張った水を用意して、こまめにすくいましょう。お玉を水にくぐらせながらすくうと、アクがお玉にこびりつかず作業がはかどります。ここでの誤解は「白い泡も全部すくわなければならない」というもの。灰色や黒のアクは臭みのもとですが、後半に出てくる白っぽい泡には脂やゼラチンも含まれます。丁寧なアク取りは、臭みのないクリアな牛骨スープへの近道ですが、取りすぎてコクまで捨てないよう、色の濃いアクを中心に狙うのがコツです。
・血抜きは冷水で3時間以上(理想は8~12時間)、水は1時間ごとに交換
・霜降りは沸騰湯で数分炊いて湯を捨て、骨を冷水で2~3回洗う
・本煮込みの序盤は黒いアクを重点的にすくう。白い泡まで取りすぎない
本煮込みの火加減は?澄んだスープと白濁スープで真逆になる理由
清湯系は「強火で沸かしてから弱火で静かに」
下処理を終えた骨を鍋に戻し、骨の1.5~2倍の水を張ったら、いよいよ本煮込みです。澄んだスープ(清湯系)を目指すなら、火加減は最初は強火で沸騰させ、その後は弱火で継続が基本。表面がかすかに揺れる程度の火で、骨を踊らせないように炊き続けます。骨が鍋の中で激しく動くと、脂と水がかき混ぜられて白く濁るからです。この方法は韓国の家庭に伝わる牛骨スープの炊き方とも共通していて、「沸騰したら弱火で沸かす」と説明されます。仕上がりは、透き通った淡い黄金色。塩をひとつまみ入れて飲むと、骨の甘みがすっと舌に広がります。マニアックな話をすると、清湯の牛骨スープはラーメンだけでなく、醤油ダレや塩ダレとの相性がよく、タレの輪郭を消さずに下支えしてくれます。

ラーメン屋のカウンターで丼が置かれた瞬間、スープの底に沈んだメンマの輪郭までくっきり見える——あの透明な一杯を清湯(ちんたん)と呼びます。ところが、この「澄んで…
白湯系は「強火を維持して混ぜ続ける」
一方、白く濁った牛骨白湯を目指すなら、考え方は正反対です。業務用の手順では、強火を維持し、スープを混ぜながら8時間炊き続けることが重要とされています。白濁の正体は、牛骨から溶け出した脂とゼラチン質が細かい粒になって水に分散する「乳化」。強火で沸騰を続けると、湯の対流が脂とゼラチンを細かく砕き、牛乳のような白いスープに変わっていきます。ラーメン自作の世界では、蓋を開けて沸騰させながら10分ごとに攪拌し、乳白色になるまで煮込むというやり方も紹介されています。途中で水分が減るので、適宜水を足して水位を保つのが大切です。よくある誤解が「白湯は長く煮れば自然に白くなる」というもの。弱火でいくら長く煮ても、対流が弱ければ乳化は進みません。白さを生むのは時間ではなく火力です。
ラーメンもぎ調べ:清湯・白湯・韓国式の工程比較
ここまでの内容を、公開されている複数のレシピ・業務用手順の数値をもとに、ラーメンもぎで整理しました。同じ牛骨でも、目指すスープによって火加減と時間がまるで変わることが一目で分かります。
| 項目 | 清湯系(家庭) | 白湯系(業務用) | 韓国式(家庭) |
|---|---|---|---|
| 血抜き | 3時間以上 | 流水洗浄+下茹で | 3時間以上 |
| 骨の形 | 割った骨 | ハンマーで割る | 割った骨 |
| 火加減 | 強火で沸騰→弱火 | 強火を維持 | 沸騰後は弱火 |
| 混ぜる | 混ぜない | 混ぜながら炊く | 混ぜない |
| 本煮込みの目安 | 色と香りを見て判断 | 8時間 | 3~4回に分けて加熱 |
| 仕上がり | 淡い黄金色 | 乳白色 | 白っぽく濁る |
表を見ると、3タイプに共通するのは「最初に血と汚れを抜く」ことだけで、その先はまったく別の料理だと分かります。作りたいスープを先に決めてから火をつける。これが牛骨スープで迷わないための第一原則です。
牛骨スープの作り方・白湯編|8時間の強火で乳化させる手順

業務用の流れ:洗浄→割る→下茹で→本煮込み
白湯系の牛骨スープは、ラーメン店の厨房で磨かれてきた手順がそのまま参考になります。業務用の工程は流水洗浄→ハンマーで割る→下茹で数分→本煮込み8時間。配合の一例は水10L+牛骨4kgです。まず骨を流水で洗って表面の血や骨粉を落とし、割って骨髄を露出させます。次に下茹でで沸騰後数分炊いて湯を捨て、血や臭みを抜いて「土台」を作ります。そして本煮込みでは強火を保ったまま、骨がゴロゴロと鍋の中で動く状態をキープします。家庭で作る場合は、この比率と工程を小さな鍋に縮めて考えればOK。骨の量を減らしても、水の量は骨の1.5~2倍を守ることで、濃度のバランスが崩れにくくなります。白湯系の牛骨ラーメンは豚骨白湯ほど重たくならず、甘い余韻が長く続くのが魅力です。
完成の合図は「骨が崩れ、スープが白濁したとき」
何時間煮たら完成なのか。業務用の目安は8時間ですが、家庭では火力や鍋の大きさが違うため、時計よりもスープの状態で判断するのが確実です。目印は、骨が崩れ、スープが白濁してきたら十分に乳化している状態。関節部分の軟骨が溶けて骨の端がぽろぽろと崩れ始め、スープの色が灰色から乳白色へと変わったら、仕上げの段階に入ったサインです。お玉ですくって冷ましたとき、唇がぺたりとくっつくような粘度が出ていれば、ゼラチンがしっかり溶け出しています。最後にスープを漉して原料を取り除けば完成です。家庭で強火を長時間続けるのが難しい場合、ラーメン自作の世界ではハンドブレンダーで強制乳化させ、牛乳のように真っ白に仕上げる裏技も紹介されています。
圧力鍋で時短するときの注意点
「8時間も火のそばにいられない」という方にとって、圧力鍋は心強い味方です。加圧によって沸点が上がり、骨からコラーゲンや骨髄が短時間で溶け出しやすくなります。ただし牛骨は体積が大きく、先に触れたとおり6リットル以上の容量の圧力鍋が必須とされます。骨と水を詰め込みすぎると、メーカーが定める最大水位を超えてしまい、安全に使えません。圧力鍋を使う場合も、血抜きと霜降りは省略しないこと。密閉して加圧するぶん、臭みが逃げる場所がなく、下処理の甘さがそのまま味に出ます。加圧後は圧が抜けてから蓋を開け、白く濁っていなければ蓋を外して強火で煮立て、混ぜながら乳化させると仕上がりが安定します。圧力鍋の使い方の細部はメーカーごとに違うので、取扱説明書の最大水位と加圧時間を必ず確認してください。
状況:白湯を目指して強火で炊き始めたが、吹きこぼれが怖くて途中から弱火にしたら、灰色がかった薄いスープにしかならなかった。
原因:対流が弱まり、脂とゼラチンが細かく砕かれなくなった。水位が下がって骨が露出していたことも、焦げ臭さの原因になった。
対策:強火を維持して混ぜながら炊き続け、減った水分は適宜補充して水位を保つ。どうしても強火を続けられない場合は、仕上げにハンドブレンダーで乳化させる。
なぜ3番だしまで取れるのか?韓国式の煮出しと冷まし方
1番・2番・3番で味の役割が変わる
韓国の家庭で受け継がれてきた牛骨スープには、同じ骨を3~4回に分けて煮出すという独特の考え方があります。1番目で基本の出汁、2番目でさらに深い味わい、3番目で最終の風味を引き出し、それぞれを合わせて一つのスープに仕上げるのです。一度で煮きってしまわずに、何度も水を張り直して煮出すのは、骨の外側から溶ける成分と、時間をかけて内側から出てくる成分が違うため。1番だしは香りが強く軽やか、回を重ねるごとに白っぽく、ゼラチン質の多いとろりとした液体になっていきます。興味深いのは、「3番まで作ればいいが、その次は栄養素が全部抜けてしまう」と明確に上限が示されていること。4番目以降は骨がほぼ出しきられ、手間のわりに味が乗りません。家庭で牛骨を買ったら、1回で捨てずに3番だしまで取るのが、骨を無駄にしない賢い使い方です。
冷ますなら冷蔵庫より「外気」の知恵
煮出したスープの冷まし方にも、韓国家庭ならではの知恵があります。大きな鍋のまま冷蔵庫に入れるのではなく、ベランダなどで自然冷却するという方法です。寒い季節の外気に当てると、すぐに温度が下がり、スープはゼラチンのように固くなります。冷蔵庫に熱い大鍋を入れると庫内の温度が上がり、ほかの食材まで傷めてしまうため、外気を使うのは理にかなった工夫といえます。ただし、この方法が使えるのは気温が低い季節に限られます。暖かい時期に外へ出しておくと、ぬるい温度帯に長く置くことになり、かえって傷みやすくなるので注意しましょう。暖かい季節は、鍋ごと氷水を張ったシンクに浸けるなどして、素早く粗熱を取ってから冷蔵庫へ移すのが安心です。冷めたスープがぷるぷるに固まっていたら、ゼラチンがよく出た成功の証です。
固まった脂をすくえば、澄んだスープに変わる
冷ましたスープの表面を見ると、白い脂が板のように固まっています。これをスプーンで丁寧に除去すると、澄んだスープになります。先に触れたとおり、牛脂は冷えると白く固まりやすいので、温かいうちにお玉ですくうよりもずっと簡単に、ほぼすべての脂を取り除けます。ここで「取った脂はもったいない」と感じたら、別の容器に取っておきましょう。牛脂の香りは炒め物や、ラーメンの香味油の風味づけに生かせます。ラーメン用に使う場合、脂をすべて取った澄んだスープに、あとから必要な量の脂を戻せば、こってり度を自分で調整できます。実は、プロのラーメン店でもスープと油を別々に管理し、提供直前に丼で合わせるのが一般的です。冷まして脂を分けるこの工程は、家庭で「店の設計」に近づけるための第一歩でもあります。
牛骨スープというと白濁した濃厚スープを思い浮かべがちですが、意外と知られていないのが、家庭では清湯系のほうが失敗しにくいという点です。白湯は強火を長時間維持し、水位を保ちながら混ぜ続ける体力勝負。清湯系なら沸騰後は弱火で静かに炊き、冷まして脂を取るだけで、澄んだ甘いスープが手に入ります。初めての牛骨は清湯から始め、慣れたら白湯に挑む順番がおすすめです。
牛骨スープはラーメンにどう使う?鳥取から世界まで学ぶ活用術
お手本は鳥取の牛骨ラーメン
牛骨スープをラーメンに使うなら、お手本は鳥取牛骨ラーメンです。鳥取県観光連盟の公式サイト「とっとり旅」では、牛の骨でだしをとったスープに、ちぢれ麺、もやしやメンマ、ネギなどのシンプルな具材を合わせ、醤油や塩をベースにしたラーメンとして紹介されています。昭和20年代から伝わるラーメンで、牛の骨でだしをとるスープを使ったラーメンは全国的にも珍しいうえ、提供する店が地域にかたまっているのも特徴です。地元紙『日本海新聞』に中華そばの広告が初めて載ったのは1951年3月29日、米子市の「満洲味(ますみ)」の広告で、当時から牛骨と豚骨をミックスしたスープを使っていたとされます。旧満州で日本人が牛骨スープのラーメンに出会ったことが、このご当地ラーメン誕生のきっかけといわれています。
- 第二次世界大戦中:旧満州で日本人が牛骨スープのラーメンに出会う
- 昭和20年代:鳥取で牛骨スープのラーメンが伝わり始める
- 1951年:米子市の「満洲味」が日本海新聞に中華そばの広告を掲載
- 近年:県外のブロガーの紹介などで知名度が上がり、行列店も現れる
牛骨が鳥取に根付いた「経済的な理由」
なぜ鳥取で牛骨が主役になったのか。理由の一つは、鳥取県が畜産の盛んな土地で、牛骨を手頃に入手できたことです。当時は鶏ガラが有料だった一方で、牛骨はほぼ無料で手に入ったといわれます。さらに、鶏ガラと違って牛骨は10時間から12時間煮出してもだしが取れるため、経済的だったとも考えられています。これは、韓国家庭で3番だしまで取る知恵とも重なる話で、牛骨が「長く、何度も炊ける骨」であることを物語っています。面白いのは、地元では「ラーメン」といえば牛骨で出汁をとるのが当たり前で、それが地域固有の味だとは認識されていなかったこと。鳥取県中西部では当たり前に食べられていた一杯が、外から見て初めて「珍しいご当地ラーメン」として発見されたのです。家庭で牛骨スープを炊くなら、醤油ダレと合わせて鳥取風に仕立てるのが、いちばん素直な楽しみ方です。

家でラーメンを作ろうとして、スープまでは形になったのに、丼に注いだ一杯がぼんやりした味で終わった——その原因は、ほぼ「かえし」にあります。鶏ガラや豚骨を何時間炊…
読者タイプ別:牛骨スープの使い分け提案
牛骨スープの楽しみ方は、目的によって変わります。初めて骨からスープを取る方は、清湯系で1番だしを取り、塩と醤油で味を見るところから始めましょう。骨の甘みを素直に感じられ、失敗も少ない方法です。ラーメン自作にハマっている方は、白湯系で強火を維持した乳化に挑戦し、豚骨白湯との違いを飲み比べると、牛骨の甘さと軽さが際立ちます。作り置きしたい方は、韓国式に3番だしまで取り、冷まして脂を除いたスープを小分けにしておくと、ラーメンにもスープ料理にも回せて便利です。世界の骨だし文化に興味がある方には、韓国のソルロンタンや、フランスのフォン・ド・ヴォーとの比較がおすすめ。フォン・ド・ヴォーは仔牛の骨やスジ肉を焼き色がつくまで焼いてから煮込む褐色のだしで、フォンをとり煮詰めるのに最低でも3日程度かかるといわれます。同じ牛の骨でも、国によって手法がこれほど違うのです。
| 料理 | 主な材料 | 特徴 |
|---|---|---|
| 鳥取牛骨ラーメン | 牛の骨 | 醤油や塩ベース、ちぢれ麺 |
| ソルロンタン(韓国) | 四肢骨・膝軟骨・牛頭・牛足 | 塩で味付け、白濁 |
| コムタン(韓国) | 本来は牛肉中心 | 本来は醤油で透明、今は白濁も |
| フォン・ド・ヴォー(仏) | 仔牛の骨・スジ肉 | 焼いてから煮込む褐色のだし |
まとめ
牛骨スープは、特別な道具や材料がなくても、骨とお湯と時間さえあれば家庭で作れるスープです。臭みの原因は骨の中に残った血なので、最初の血抜きと霜降りを丁寧にこなせば、あとは火加減の選び方ひとつで、澄んだ黄金色にも、乳白色にも仕上げられます。1番だしから3番だしまで骨を使いきり、冷まして脂を取れば、鳥取の牛骨ラーメンにも通じる甘くやさしいスープが手元に残ります。最初の一歩として、今週末は近所の精肉店で「スープ用の牛骨を割ってください」と頼み、その夜から冷水に浸けてみてください。
※加熱時間や水の量は公開レシピ・業務用手順の目安です。鍋の大きさや火力によって変わるため、スープの色や骨の状態を見ながら調整してください。

コメント