「まる玉ラーメン」で検索して、住所が東京だったり愛知だったり長野だったりして混乱した経験はないでしょうか。同じ「まる玉」の三文字を掲げながら、片方は鶏だけで炊いた白いスープ、もう片方は台湾まぜそばや二郎系を出す店です。しかも本家のほうは看板だった本店がすでに存在しません。
結論から言えば、ラーメン史に名を刻んだ「まる玉ラーメン」は2001年に埼玉県川口市で生まれた「らーめん まる玉」を指します。この店が出した鶏だけの白いスープに、ラーメン評論家が「鶏白湯」という呼び名を与え続けたことで、ひとつのジャンルが日本のラーメン地図に書き加えられました。そして現在、この味を日本で確実に味わえるのは東京・大島の一軒です。
この記事では、まる玉ラーメンがどこから来てどこへ行ったのかを、創業から海外展開まで時系列で追いかけます。丼に浮かぶ緑色の「あおさ」がなぜ乗っているのか、鶏だけのスープがなぜ白く濁るのかという理屈まで踏み込み、同じ名前を持つ別ブランドとの見分け方も整理します。読み終えたとき、あなたは丼の前で語れる側に回っているはずです。
・まる玉ラーメンの正体と、「鶏白湯」という言葉が生まれた経緯
・鶏だけのスープが白く濁る仕組みと、あおさが乗る理由
・メニューの組み立て方と、初訪問での注文の考え方
・愛知・長野の「麺屋まる玉」との違いと、検索で迷わないコツ
まる玉ラーメンとは何者か——「鶏白湯」という言葉が生まれた場所

ラーメンのジャンル名の多くは、誰が名付けたのか分からないまま定着します。家系も二郎系も、気づいたら皆がそう呼んでいた。ところが「鶏白湯」だけは、生まれた場所と広めた人物がかなりはっきりしています。その中心にあったのが、まる玉というのれんでした。
2001年、川口の一軒から始まった白いスープ
まる玉の出発点は2001年、埼玉県川口市です。ブランドが掲げたコンセプトは「世界中の誰もが食べられる一杯をつくる」というもので、その答えとして選ばれたのが鶏でした。宗教上の理由で豚を口にできない人がいること、牛より鶏のほうが受け入れられる地域が広いこと——世界を見据えるなら鶏しかない、という逆算だったわけです。
当時のラーメン界における「濃厚スープ」といえば、豚骨が主役でした。九州系の白濁スープが東京で市民権を得つつあり、家系の豚骨醤油も広がっていた時期です。そこへ、豚の骨をいっさい使わずに白く濁らせた鶏のスープを出す。これは今の感覚で想像するより、はるかに異物感のある提案でした。
鶏を軸にした濃厚スープの先行例がなかったわけではありません。1971年創業の天下一品は、鶏がらと野菜を炊き込んだどろりとしたスープで全国的な知名度を得ていました。ただし天下一品のあれは「こってり」という自前の呼び名で語られるもので、ジャンル名としての「鶏白湯」とは別の文脈にあります。まる玉が持ち込んだのは、鶏の旨みを塩で受け止める、もっと輪郭のはっきりした白湯でした。
川口の創業店はその後閉店していますが、ここで生まれたスープの設計図は、翌年に開いた本店へと持ち込まれます。
「鶏白湯」を流行語にした一人の評論家
2002年、まる玉は東京・両国に本店を構えます。相撲の街に鶏の白いスープ、という取り合わせが面白かったのか、この店には力士の常連も付きました。そして決定的だったのが、ラーメン評論家石神秀幸氏の存在です。
石神氏は1995年のテレビチャンピオン「ラーメン王選手権」を2大会連続で制した人物で、ラーメンを「文化」として語る土壌をつくった書き手として知られます。この石神氏が両国本店の一杯を繰り返し「鶏白湯」と表現し続けたことで、言葉が読者に刷り込まれ、やがてジャンル名として独り立ちしていきました。和歌山ラーメンを世に紹介した仕掛け人でもあり、名付けと紹介の力を持っていた人だったのです。
ここが面白いところで、まる玉の店主は「新ジャンルを創設します」と宣言したわけではありません。世界で通用する鶏のラーメンを作ったら、それを説明する言葉が外から与えられた。名は体を表すどころか、名が体を規定した珍しい例です。今では鶏白湯は全国どこの街にも専門店があり、コンビニのカップ麺の棚にも並びます。その源流をたどると、両国の小さなカウンターに行き着きます。
「白湯(パイタン)」は中国語で白く濁ったスープを指す言葉で、澄んだスープを意味する「清湯(チンタン)」と対になります。豚骨白湯・牛骨白湯という言い方は以前からありましたが、「鶏白湯」という組み合わせが日本のラーメン用語として定着したのは2000年代に入ってからです。カウンターで「鶏白湯って割と新しい言葉なんですよ」と言うと、たいてい一拍置かれます。
相撲の街に根を張った20年弱
両国という土地は、ラーメン店にとって癖のある商圏です。場所中は人が溢れ、それ以外の時期は落ち着く。観光客と地元客の比率が季節で入れ替わります。そんな街でまる玉が支持されたのは、鶏だけのスープが持つ「重すぎない濃厚さ」が、量を食べる人にも量を食べない人にも収まりが良かったからでしょう。
看板の一杯は、黄白色の鶏白湯にあおさとねぎが浮かぶという、当時としては見慣れない絵面でした。豚骨の白濁でもなく、醤油の黒でもない。丼の中に緑が入るラーメンは、その頃まだ珍しかったのです。この見た目のインパクトが、雑誌やテレビで取り上げられるうえでも効きました。
本店には半熟の味玉、とろけるチャーシューといった今では標準装備のトッピングが揃い、それらを「入り」という言い方で足していく注文形式が採られました。この形式は現在の店にもそのまま受け継がれています。つまり、まる玉のメニュー表を読むという行為自体が、20年以上前の設計をなぞる体験になっているわけです。
いま確実に食べられるのはどこなのか
ここが検索者にとって一番切実な情報でしょう。両国本店は2020年5月頃に閉店しました。新型コロナウイルスの影響で休業が続いた末の判断です。創業地である川口の店も、それ以前に姿を消しています。
横浜・青葉台にも2011年9月に開いた店がありましたが、こちらは食べログで「掲載保留」——休業期間が未確定、もしくは移転・閉店の可能性がある——という扱いになっており、営業状況が確認できません。訪問を計画する場合は事前確認が必要です。
そうしたなかで、いま確実に暖簾をくぐれるのがらーめん まる玉 大島店です。両国本店で修業した人物が独立して構えた店で、2014年12月に開店しました。TRYラーメン大賞2021-2022の鶏白湯部門で入賞しており、本店なきあとも評価軸の上に立ち続けています。
| 住所 | 東京都江東区大島4-8-13 |
| 電話番号 | 03-5875-4388 |
| アクセス | 都営新宿線 大島駅 徒歩2分 |
| 駐車場 | なし(近隣にコインパーキングあり) |
都営新宿線 大島駅 徒歩2分という立地で、席数は13席(カウンター7席・テーブル6席・テラス約4席)。クレジットカードは使えないため、現金を用意していくのが無難です。
- 2001年:埼玉県川口市で創業。鶏だけで炊く白湯スープを掲げる
- 2002年:東京・両国に本店を開店。ここが看板店となる
- 2007年:シンガポール1号店をThe Centralに開店
- 2011年9月:横浜・青葉台に出店
- 2014年12月:大島店が開店(本店で修業した人物が独立)
- 2020年5月頃:両国本店が閉店
- 2025年9月:シンガポールのION Orchardに新店
鶏だけで炊いたスープは、なぜ白く濁るのか
鶏がらでスープを取ったのに、家では透明な澄んだ汁にしかならない。そんな経験のある方は多いはずです。同じ鶏なのに、店の丼はなぜ牛乳のように白いのか。ここには温度と時間と、コラーゲンという分子の話が絡んでいます。
コラーゲンがゼラチンに変わるまでの時間
白湯の白さの正体は乳化です。骨や骨髄に含まれるコラーゲンは、加熱されるとゼラチンへと分解されます。このゼラチンが水に溶けて糸のような細かい構造をつくり、そこへ鶏から出た脂の粒が取り込まれる。本来は混ざらない油と水が均一に分散した状態、それが乳化であり、光を乱反射して白く見えるという仕組みです。
ここで効いてくるのが「強火で対流させ続ける」という工程です。弱火でことこと煮ると、脂は表面に浮いたまま分離し、澄んだ清湯になります。逆に、ぐらぐらと沸かして物理的に脂を叩き割り、ゼラチンと混ぜ込むと白湯になる。同じ材料でも火加減ひとつで別ジャンルの汁ができあがるわけです。家庭の鶏がらスープが澄んでしまうのは、多くのレシピが「アクを取りながら静かに煮る」と教えるからです。
まる玉のスープは、シンガポールの公式説明によれば圧力鍋を用い、時間をかけて鶏の旨みを引き出したコラーゲン豊富な濃厚スープとされています。圧力鍋は沸点を上げられるため、コラーゲンの分解を短時間で進められる道具です。伝統的な寸胴の炊き方とは別ルートで、同じ場所にたどり着いている点が興味深いところです。
もみじが担う「とろみ」の正体
鶏白湯を炊く現場でほぼ必ず登場するのがもみじ——鶏の足です。見た目が紅葉に似ていることからこう呼ばれます。もみじは肉がほとんど付いていない代わりに、皮と腱と軟骨の塊であり、コラーゲンの含有量が突出しています。
まる玉のスープも、鶏がらだけでなくもみじや胴などの肉付きの部位をふんだんに使うと説明されています。がらだけでは旨みは出ても粘度が足りず、もみじだけでは味が薄い。骨・足・肉付きの三点を組み合わせることで、味の厚みととろみを両立させているわけです。冷めると煮こごりのように固まる鶏白湯があるのは、ゼラチン量が多い証拠です。
よくある誤解として「とろみ=脂の量」と考える人がいますが、粘度の主犯はゼラチンです。脂は口当たりのなめらかさとコクを担当しますが、スプーンにまとわりつくあの感触はゼラチンの仕事。だから鶏白湯は、こってり見えるわりに脂の量そのものは節度を保っている場合があります。
「白いスープ=豚骨」と思い込んでいると、鶏白湯の丼を見て「豚骨にしてはあっさりしている」という感想になりがちです。白濁は材料ではなく乳化という現象が起こしたもので、豚でも鶏でも牛でも魚でも白くなります。色で素材を当てようとすると、まず外れます。
豚骨白湯とは似て非なる後味
鶏白湯と豚骨白湯を並べたとき、最も差が出るのは飲み終わったあとの数十秒です。豚骨は脂の甘みと動物的な香りが口の中に残り続けます。対して鶏白湯は、旨みのピークが早く来て、引きも早い。鶏の脂は豚脂より融点が低く、体温で溶けきってしまうためです。
まる玉の一杯は、ラーメン評論家からも「鶏のまろやかさを感じながら喉をすっと自然に滑り、最近の鶏白湯とは一線を画す味」と評されています。近年の鶏白湯はポタージュのように粘度を上げた濃厚路線が主流ですが、まる玉はその流行の手前にある、飲めるバランスを守っているという読み方ができます。
ここで逆張りの視点をひとつ。意外と知られていないけれど、鶏白湯というジャンルは「濃くすればするほど良い」という競争に入った瞬間から、まる玉の設計思想からは離れていきました。世界中の誰もが食べられる一杯を目指した店が出した答えは、飲み干せる濃厚さだった。今の高粘度な鶏白湯を基準にまる玉を食べると「思ったより濃くない」と感じるかもしれませんが、それは店が薄いのではなく、あなたの基準のほうが後から動いたのです。
スープの濃度と後味の関係を突き詰めた例としては、鶏を軸にした別の系譜も参考になります。

行列のできるラーメン店は数あれど、「あの味だけは家でも他店でも再現できない」と語り継がれる一杯があります。そう、天下一品の「こってり」です。レンゲですくうと落ち…
丼に浮かぶ緑の正体——あおさが看板になった理由

まる玉の一杯を写真で見たとき、多くの人が最初に目を留めるのが緑色の海藻です。ラーメンに海苔は当たり前でも、細かい緑がスープに散っている絵はそう多くありません。このあおさこそ、まる玉を他の鶏白湯と分ける最大の記号です。
あおさ・青のり・あおさのりは全部違うものだった
まず用語を整理します。混同されがちな三つは、生物学的な分類からして別物です。あおさはアオサ科アオサ属で、薄く平たい葉の形をしています。乾燥するとパリッとして、水に戻すとしっとりする。青のりは同じアオサ科でもアオノリ属で、細い糸のような形状をしており、粉末で使われることが多く香りが強い。たこ焼きやお好み焼きに振るのはこちらです。
ややこしいのがあおさのりで、これはヒトエグサ科ヒトエグサ属という第三の存在です。あおさよりやや厚みがあり、香りも良いとされ、沖縄では「アーサ」と呼ばれてアーサ汁などに使われます。名前に「あおさ」と付いているのに別科という、命名の混乱がそのまま残った例です。
あおさは砂浜に近い浅い海域で育ちます。味噌汁、天ぷら、サラダといった用途が一般的で、麺類のトッピングとしても使われてきました。ラーメンに乗せるという発想自体は前例のないものではありませんが、鶏白湯と組み合わせて看板にした点がまる玉の独自性です。
| 項目 | あおさ | 青のり | あおさのり |
|---|---|---|---|
| 分類 | アオサ科アオサ属 | アオサ科アオノリ属 | ヒトエグサ科ヒトエグサ属 |
| 形状 | 薄く平たい葉状 | 細い糸状 | あおさよりやや厚い |
| 主な使い方 | 味噌汁・天ぷら・サラダ | 粉末で振りかける | アーサ汁など沖縄料理 |
| 別名 | - | - | アーサ(沖縄) |
磯の香りの正体はDMSという分子だった
あおさを丼に落とした瞬間、湯気に乗って磯の匂いが立ちます。この香りの正体はジメチルスルフィド(DMS)という硫黄を含む化合物です。海辺に立ったときに感じる「海の匂い」も、その多くはこの分子が担っています。
面白いのは、海藻の細胞の中にDMSがそのまま入っているわけではないという点です。海藻や植物プランクトンは、浸透圧の調整や凍結防止のためにジメチルスルホニオプロピオネート(DMSP)という物質を蓄えています。これ自体はほとんど香りません。DMSPが分解されて初めてDMSになり、あの磯の香りが立ち上がる。乾燥あおさを熱いスープに落とすと香りが一気に開くのは、この分解と揮発が同時に起こるからです。
つまり、あおさは「後乗せ」でなければ意味がありません。最初からスープに溶かし込んで炊いてしまえば、香りは飛びきってしまう。丼の上に置かれ、食べる人が箸を入れた瞬間に香りが立ち上がるという時間設計込みのトッピングなのです。着丼した瞬間に写真を撮るより先に、まず湯気を吸い込むのが正しい順番だと言えます。
鶏の甘みと磯の香りが喧嘩しない理由
普通に考えれば、鶏の濃厚なスープに海藻の香りは邪魔になりそうです。ところがこの組み合わせは成立している。理由は、まる玉のスープが塩で味を決めているからです。醤油の香ばしさは磯の香りとぶつかりますが、塩は素材の輪郭を立てるだけなので、鶏の甘みと海の香りが別々のレイヤーで並存できます。
加えて、鶏白湯の脂は香り成分を溶かし込んで口の中に運ぶ役割を果たします。DMSは揮発性が高く、水だけでは鼻に抜けて終わりますが、脂の膜に乗ると口内でじわじわ放出される。乳化した白湯は、香りのキャリアとしてもよくできているわけです。
海藻とラーメンの相性という話題では、板海苔の存在も外せません。あおさが「香りを散らす」役だとすれば、板海苔は「香りを一点に集める」役です。同じ海のものでも、丼の中での仕事はまったく違います。

ラーメンの丼に立てかけられた黒い板海苔——あれ、なんのために入っているか即答できますか?「彩り」「なんとなく」と思っている方、実はものすごくもったいない認識です…
素のらーめんから全部のせまで、注文の設計図
まる玉のメニュー表は、ベースの一杯に何を「入り」で足すかという足し算方式です。この構造を理解しておくと、初訪問でも迷いません。なお以下の価格は情報サイトに掲載されていた参考値で、変動する可能性があります。最新の価格は店頭でご確認ください。
まずは何も乗っていない一杯から入る
ベースとなる「らーめん」は700円程度とされています。トッピングが何も乗っていない状態で、スープと麺とチャーシュー、ねぎ程度というシンプルな構成です。鶏白湯の専門店で700円台のベース価格は、現在の相場から見ればかなり抑えられた設定です。
初訪問でこれを選ぶ意味は、スープの素の姿を確認できる点にあります。あおさを入れると磯の香りが主役になり、生からしを入れれば辛味が輪郭を変える。トッピングは足せば足すほど「まる玉らしさ」は増しますが、鶏そのものの味の見極めは難しくなります。二回目以降のために基準点を作っておく、という考え方です。
ただし、あおさこそがこの店の看板だという事実もあります。一度きりの訪問で、この店の代名詞を体験せずに帰るのはもったいない。時間に余裕があるなら、素のらーめんを食べたあとに替玉を頼み、途中であおさを追加するという折衷案も取れます。メニューには替玉のおかわりが用意されています。
味玉・あおさ・ねぎを足す順番の考え方
トッピング入りの価格は、味玉子入りと生辛子入りがそれぞれ800円程度、あおさ入りが1,000円程度、あおさ玉子入りが1,100円程度、ねぎあおさ玉子入りが1,300円程度とされています。角煮あおさ玉子入りと全部のせはいずれも1,500円程度です。
足し算の順番として理にかなっているのは、あおさ→味玉→ねぎです。あおさは香りの層を追加し、味玉はスープを吸って味の濃淡をつくり、ねぎは食感と辛味で全体を締める。逆にねぎから足すと、青ねぎの香りが磯の香りを覆ってしまい、あおさを入れた意味が薄まります。
読者タイプ別に整理するなら、初訪問で店の代表作を押さえたい人はあおさ玉子入り、鶏白湯の濃厚さを最後まで飽きずに走り切りたい人はねぎあおさ玉子入り、写真映えと満足度を優先したい人は全部のせ、という選び方になります。予算を700円台に収めたい昼休みの一杯なら、素のらーめん一択です。
まる玉のメニューは「ベース+入り」の足し算構造です。看板はあおさ、後半戦の味変担当は生からしとレモン。支払いは現金のみなので、キャッシュレス派は事前に用意を。替玉があるため、前半と後半で違う顔を試す食べ方も成立します。
生からしとレモンという二つの劇薬
まる玉のメニューで異彩を放つのが生からしです。練りからしではなく、青唐辛子を使った辛味で、単なる辛さ増しではなく香りの方向を変えるタイプの薬味とされています。訪問者の記録では、この辛味がなかなか強いという声も見られます。
もうひとつがレモン(生搾り)で、100円程度で追加できます。鶏白湯にレモンを入れるのは、脂の粘りを酸で断ち切るための操作です。乳化したスープは口の中に膜を作りますが、そこへ酸が入ると膜が切れて、後半のスープが軽くなる。替玉を入れる前にレモンを絞ると、二杯目の麺が別料理のように感じられます。
変わり種としてはオリジナルスパイスカレーが300円程度で用意されています。鶏白湯のスープにカレーを合わせるという発想は、締めのご飯ものとしても、途中の味変としても機能します。ラーメン店の「裏メニュー的な一品」を試すのが好きな方には目を引く選択肢でしょう。
チャーシューは2種類から選べる
大島店では、チャーシューを低温調理のロースととろとろのバラ肉から選べます。ロースは赤身の締まった食感で肉そのものの味を楽しむ方向、バラ肉は脂の甘みでスープと一体化する方向です。
鶏白湯に合わせるという観点で言えば、選択の基準は「スープに何を足したいか」になります。すでにあおさと味玉で情報量が多い丼にバラ肉を足すと、脂が重なって輪郭がぼやけやすい。逆に素のらーめんならバラ肉の甘みが良いアクセントになります。ロースは低温調理でしっとり仕上げられているため、あおさの磯の香りとぶつかりにくいのが利点です。
さらに、角煮を選べるトッピングも用意されています。チャーシューと角煮は同じ豚でも仕込みが別物で、角煮は甘辛く煮含めた分だけスープの塩味と対比が生まれます。部位によって味がここまで変わるという話は、ラーメンのチャーシュー全般に共通する論点です。

ラーメン屋でチャーシュー麺を頼むとき、「この肉、何の部位だろう?」と考えたことはありますか。実は、チャーシューに使われる肉の部位は豚だけでも5種類以上あり、部位…
本店が消えても味が残った——のれんの受け継がれ方
名店の閉店は珍しくありませんが、まる玉のケースが特殊なのは「本店がなくなったのに、ジャンルの名前だけが残った」という点です。そして味そのものは、独立した弟子の手で東京の東側に生き続けています。
2020年5月、両国が静かに幕を下ろした
両国本店の閉店は2020年5月頃とされています。新型コロナウイルスの影響で休業状態が続いた末の判断でした。相撲の街という立地は、場所中の人流に依存する部分が大きく、興行が止まれば客足も止まる構造だったことも背景にあります。
この閉店が惜しまれたのは、単に一軒の人気店が消えたからではありません。「鶏白湯」という言葉が生まれた現場そのものが失われたからです。ラーメン史を語るうえでの一次資料が、物理的に消滅した。近隣のメディアが「両国の名物ラーメン店がまた」と嘆いたのも、そうした文脈があってのことでした。
創業地である川口の店も、それより前に閉店しています。日本国内におけるまる玉の物語は、生まれた場所と看板の場所を両方失ったうえで、それでも続いているという形になっています。
独立した弟子が守ったもの
大島店を構えたのは、両国本店で修業した人物です。2014年12月の開店で、本店が閉じる5年半ほど前から営業していました。つまり本店が消えたときに慌てて味を引き継いだのではなく、すでに独立店として実績を積んだ状態で、結果的に本流の受け皿になったという経緯です。
この店がTRYラーメン大賞2021-2022の鶏白湯部門で入賞しているのは象徴的です。本店閉店の翌年度に、その系譜を継ぐ独立店が鶏白湯というカテゴリで評価された。ジャンルの名付け親となった店の血が、審査の場でも認識されていたことを示しています。
大島という土地も、両国とはまた違った意味で面白い選択です。都営新宿線沿線の生活圏で、観光需要にほとんど依存しません。場所中に混み、閑散期に空くという波がない代わりに、日常のなかで繰り返し食べられる店になれる。世界中の誰もが食べられる一杯を目指したブランドが、最終的に日常の商圏に落ち着いたというのは、悪くない着地に見えます。
「まる玉 本店」で検索すると、いまだに両国の住所を掲載したページが多数ヒットします。閉店は2020年5月頃ですが、更新されていないグルメサイトや個人ブログが残り続けているためです。対策:検索結果の日付を確認し、店名に【閉店】表記が付いていないかを見る。現在確実に営業しているのは大島店で、青葉台の店は掲載保留となっており営業状況が確認できません。
「本店詣で」という発想の落とし穴
ラーメン好きには「どうせなら本店で」という心理が働きます。家系なら吉村家、二郎なら三田本店といった具合に、系譜の源流を訪ねることに価値を置く文化があるからです。しかしまる玉に関しては、この発想がそのまま空振りにつながります。
そもそも本店が存在しない以上、比較の基準は「本店に近いか」ではなく「いま出されている一杯がどうか」になります。修業元が消えた店にとって、味の正解を決めるのは客の記憶と店主の判断だけです。ラーメン評論家が大島店の一杯を「最近の鶏白湯とは一線を画す」と評したのは、流行に追随せず自分の基準を持ち続けている、という意味での賛辞でしょう。
もうひとつ、系譜を追う人が見落としがちなのが海外です。国内で本店を失ったまる玉は、海外では店舗数を増やし続けています。「本流はどこか」という問いに地理的な答えを出そうとするなら、視線を日本の外へ向けたほうが実態に合っています。
日本より海外のほうが店が多いという逆転現象
まる玉の話でおそらく最も語りがいがあるのが、この部分です。国内では実質1軒にまで縮んだブランドが、シンガポールでは20年近くにわたって店舗網を広げ続けている。ラーメンの海外展開の教科書のような事例です。
2007年、鶏のスープがシンガポールに渡った
シンガポール1号店は2007年、The Centralに開きました。両国本店の開店から5年後という早さです。当時の日本のラーメン店にとって海外進出はまだ一般的な選択肢ではなく、この時期に動いたのは相当に先行した判断でした。
ここで効いてくるのが、創業時のコンセプトです。「世界中の誰もが食べられる一杯」という前提で鶏を選んでいたため、豚を使わない設計がそのまま海外市場での強みになりました。豚骨ラーメンが多くの国で直面する食文化上の壁を、まる玉は最初から回避していたのです。狙って作った設計が、5年後に効いてきたという構図になります。
運営はONE FOR ALL (S) PTE. LTD.が担い、現在はシンガポールに加えてマレーシア、インドネシア、カナダ、オーストラリアへと展開しています。日本のラーメンブランドとしては、東南アジアと北米・オセアニアの両方に足場を持つ珍しい形です。ブランドの一次情報はMarutama Ra-menの公式サイトで確認できます。
現地で麺を作るという選択
海外展開するラーメン店の悩みどころが麺です。日本から輸送すればコストと鮮度の問題が付きまとい、現地調達すれば味の再現性が落ちる。まる玉が採った答えは、シンガポール国内に自社工場を持ち、博多風の細麺を現地で製造するというものでした。
細麺を選んだ理由は、鶏白湯という汁の性質から逆算すると理解しやすくなります。乳化してとろみのあるスープは麺に絡みやすく、太麺だと持ち上がるスープ量が過剰になって重くなる。細麺なら適量が絡み、スープの香りを損なわずに啜れます。日本の店でも、鶏白湯には細めの麺が合わせられることが多いのはこのためです。
看板メニューには半熟の味玉、あおさ、とろけるチャーシューという日本と同じトッピング構成が並びます。海外店で現地化して別物になってしまうケースが多いなか、あおさという日本人でも人によっては馴染みの薄い海藻を、看板として海外で押し通している点は特筆に値します。
18年で入れ替わった店舗の顔ぶれ
シンガポールでの歩みは、単純な右肩上がりではありません。公式サイトが公開している出店・閉店の履歴を追うと、都市型飲食業の現実が見えてきます。
- 2007年:The Centralに1号店
- 2008年:Liang Court店(2020年閉店)
- 2010年:United Square店(2013年閉店)
- 2013年:Killney店
- 2017年:Downtown Gallery店・Kallang店
- 2019年12月:Tiong Bahru店
- 2021年:Bugis+店(4月)・Millenia Walk店(9月)
- 2024年7月:18 Tai Seng店
- 2025年9月:ION Orchard店
United Square店は3年で、Liang Court店は12年で幕を下ろしています。商業施設の建て替えや契約更新など、店の実力とは別の要因で場所を失うのは世界共通です。それでも2021年に2店、2024年と2025年にも新店を出しており、直近5年でも拡大の手を緩めていません。
ここに、日本のラーメン店の海外展開を考えるうえでの示唆があります。国内での知名度や本店の存在は、海外市場での成否とほぼ関係がない。効いていたのは「豚を使わない」という20年以上前の設計判断と、現地で麺を作るという再現性への投資でした。両国の本店が消えても鶏白湯というジャンルが世界で生き残っているのは、偶然ではありません。
「まる玉」を名乗る店はもう一つある——検索で迷わないために
ここまで読んで大島へ行こうと決めた方が、最後につまずきかねない罠があります。「まる玉」を検索すると、愛知県と長野県の店が高い頻度で混ざってくるのです。これらは鶏白湯のまる玉とは別のブランドです。
愛知・長野の「麺屋まる玉」は別の一杯
もうひとつの「まる玉」は麺屋まる玉という店名で、運営は愛知県名古屋市守山区に本社を置く株式会社玉越です。パチンコホールを主力事業とする企業が展開する飲食部門で、1号店の浄水店が2017年4月、2号店の東郷店が2018年7月21日、3号店の白馬店が2019年5月24日という順で開いています。
社名の「玉越」から一文字を取った屋号であることは想像しやすく、鶏白湯の「らーめん まる玉」とは出自がまったく別です。店舗プロデュースを担当したのは、名古屋発で海外にも店を広げるフジヤマ55の代表職人・澤竜一郎氏。名古屋のつけ麺・まぜそば文化を背景に持つ座組みです。
提供している一杯も方向が異なります。定番として味噌ラーメン、醤油ラーメン、まぜそば、台湾まぜそば、玉越二郎が並び、白馬店では3号店で初導入となるつけ麺——濃厚魚介豚骨スープと自家配合の太麺——が加わりました。鶏だけで炊いた塩の白湯とは、目指している地点が違います。
| 住所 | 長野県北安曇郡白馬村北城3020-1100 |
| 電話番号 | 0261-85-5067 |
| 駐車場 | あり |
| 公式サイト | 公式サイト |
白馬店は白馬ベースキャンプに隣接するエコーランドエリアにあり、駐車場も備えています。スキーシーズンに白馬を訪れる人にとっては、行動範囲のなかに収まる立地です。
運営会社も味の方向もまるで違う
2つの「まる玉」を並べて整理しておきます。名前の一致は偶然であり、系譜としてのつながりは公表されていません。丼の中身で見れば、迷う余地はないほど別物です。
| 項目 | らーめん まる玉 | 麺屋まる玉 |
|---|---|---|
| 創業・開店 | 2001年(埼玉県川口市) | 2017年4月(1号店・浄水店) |
| 運営 | 独立店(大島店)/海外は現地法人 | 株式会社玉越 |
| 主なエリア | 東京・大島/シンガポールほか | 愛知・長野 |
| 看板の一杯 | 鶏白湯+あおさ | 味噌・台湾まぜそば・つけ麺 |
| スープの軸 | 鶏+塩 | 豚骨中心に鶏が利いた醤油系ほか |
愛知県内で麺屋まる玉を訪ねるなら、東郷店が2号店にあたります。GOLD玉越 東郷店の館内にあり、席数31席、名鉄バス「音貝小学校」停留所から徒歩10分という立地です。運営会社の情報は株式会社玉越の公式サイトで確認できます。
| 住所 | 愛知県愛知郡東郷町大字春木字白土1-22 GOLD玉越 東郷店内 |
| アクセス | 名鉄バス「音貝小学校」停留所から徒歩10分 |
| 駐車場 | あり(GOLD玉越 東郷店と共用) |
| 公式サイト | 公式サイト |
予約と支払い方法で足元をすくわれない
どちらの「まる玉」を訪ねる場合も、事前に押さえておきたいのが支払い手段です。大島店はクレジットカードが使えません。東郷店も現金のみで、予約は受け付けていません。キャッシュレス決済が当たり前になった感覚のまま向かうと、券売機や会計の前で立ち止まることになります。
もうひとつ注意したいのが営業時間です。個人店やパチンコホール併設店は、時期や曜日で営業時間が動くことがあります。グルメサイトの掲載時間が最新とは限らないため、遠方から向かうなら電話での確認が確実です。
そして白馬店のように観光地に立つ店は、シーズンによって営業形態が変わる可能性があります。スキーシーズンとグリーンシーズンでは客層も需要も違うためです。旅程に組み込む場合は、直前に確認するひと手間を惜しまないほうが安全です。
「まる玉 ラーメン」で検索すると、鶏白湯のらーめん まる玉と、愛知・長野の麺屋まる玉が混在します。鶏白湯を目当てにしていたのに台湾まぜそばの店に着いた、という取り違えが起こり得ます。対策:鶏白湯を食べたいなら「らーめん まる玉 大島」、名古屋系のまぜそばやつけ麺なら「麺屋まる玉」と、屋号を正確に入れて検索する。
まとめ:まる玉ラーメンを語るために押さえたい5つの軸
まる玉ラーメンをたどる旅は、一軒の店の話であると同時に、ひとつのジャンルがどう生まれたかの記録でもあります。2001年に川口で「世界中の誰もが食べられる一杯」を目指して鶏を選んだ判断が、評論家の言葉を得て「鶏白湯」になり、シンガポールを起点に5カ国へ広がった。国内の看板店を失ってなお、その設計思想は東京・大島のカウンターと海外の店舗網の両方で動き続けています。最初の一歩としておすすめしたいのは、大島店で何も乗っていない素のらーめんを一杯食べてみることです。あおさも味玉も足さずにスープを口に運べば、20年以上前に「これなら世界のどこでも出せる」と判断された鶏の味が、そのまま舌に届きます。
なお、本記事の価格・営業状況は執筆時点で確認できた情報にもとづくもので、変更される場合があります。訪問前に店頭または公式の案内でご確認ください。

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